2012年1月14日 会報誌 「MADOKANEWS63号対談」
「2012年はピンチをチャンスに変える年に」

円より子事務所にて

●萱野稔人さん(津田塾大学准教授)
パリ第十大学より哲学博士号。著書に『国家とはなにか』、『超マクロ展望
世界経済の真実』など。朝日新聞「ニッポン前へ」委員会の委員などを務める。
円より子(前参議院議員)

★ 規範を越え、少子高齢化を越える ★

円:

萱野さんは私の母校である津田塾大学の准教授でいらっしゃいます。今の学生
さんはどんなでしょう。

萱野:
とても真面目ですね。国際協力やボランティアに関心が高く、復興ボランティア
に行っている生徒もたくさんいます。

円:
就職は厳しいようですが?

萱野:
津田塾大学は就職率はいいほうですが、学生は1年生のうちから就職を心配して
います。企業へのインターンも盛んですね。

円:
私なんて、1ドル360円の時代でしたから、ジャパンタイムズに就職したら取材で
海外に行けるんじゃないかと、呑気でしたね。右肩上がりの時代で、年金とか老後
とか考えたこともありませんでした。今の若い人たちは本当に大変で気の毒になり
ます。

萱野:
老後が心配というよりも、「払った年金が返ってこないんじゃないか」という関心の
持ち方をしていて危険だなと感じます。晩婚化と未婚率の上昇で少子高齢化が進み、
多様なライフスタイル、多様な家族形態になっているのに制度がついていっていな
くて、制度の正当性が危うい状態です。

円:

夫婦に子ども2人の標準家族を基盤に作った制度にガタがきているんです。
90年代にはすでに標準家族は3割になっていたのに、改革を怠った。

萱野:
それぐらい、家族に対する規範が強かったということですね。

円:
確かにそうですね。制度にメスを入れるのが難しいほど規範が強く存在しました。
離婚も30年前はスティグマでした。今でこそ普通になりましたが、生計をたてる
ことが難しく生きづらいのは変わりません。

萱野:
シングルマザーが出生率の上昇に寄与するという現実があるのに、これを支援しよ
うとしないのもまた規範が邪魔しています。フランス人は事実婚を選び、日本人は
法律婚を選ぶのにも表れています。フランスでは権利の保障が事実婚でも法律婚と
同じようになされているという背景もありますが。

円:
北欧もフランスと同じです。かつてシングルマザーに対して税制を優遇したり子ど
もを育てやすいようにしたところ、優遇されすぎていると非難されたので、法律婚
の家庭も同様に優遇した。どうなったと思います?法律婚は増えなかったんです。
愛国心はあるけれど、結婚や愛情などは私的な事柄であって国に介入されたくない
という国民性なんです。

萱野:
日本も、もう規範をふりかざしてもどうにもなりません。今の状態だと、さらに
少子高齢化は進みます。若い人でも子どもが育てられる社会にしていかないと。

円:
十代で結婚すると離婚が多いんです。でもそれは経済的な理由がほとんどで、公営
の住宅をもっと増やすとか職業訓練や就労支援をすればクリアーできると思います。
これは若い世代だけではなく、高齢者にとっても、年金が家賃に消えている状況で
すから有効な策です。家さえあれば、貧困も緩和されると思います。

萱野:
千葉で初の人口減少がありました。今後は都心部で同様の現象が起こるでしょう。
そうなると余った住宅を活用することもできるのではないでしょうか。

円:
日本はずっと持ち家政策をとっていましたが、ライフサイクルで世帯の人数は変わ
るのですから、安くて快適な賃貸住宅を増やしてライフスタイルに合わせて快適な
家に移り住んでいけるようにするといいですよね。政治的に困難な時代

★ 政治的に困難な時代 ★

円:
若い人たちは政治に関心をもっているのでしょうか。

萱野:
個人差はもちろんありますが、メールやSNSとか人間関係に関心と労力が奪われて
いて、政治にまでいきつかないようです。ただ、社会で生きていく困難さというもの
は強く感じていて、逆に専業主婦になりたいという願望をもっていたりします。

円:
永久就職して不安から脱したいのでしょうね。それでも子どもを産むと保育所の問題
にぶつかったり、必然的に行政と関わることになります。そういう人たちにもっと政
治に参加してほしいのです。私は子どもにも一票を与えるくらいしてもいいのではと
考えています。お母さんが子どもの一票を行使できるようにすれば、もっと若い世代
の声が反映されるようになります。

萱野:
世代間格差の話をすると、高齢世代は「自分たちはちゃんと払った」若い世代は「自
分たちはもらえない」と、対立するような話になってしまうのですが、これからくる
未来の世代が暮らしやすい社会にしないと、高齢者福祉すらなりたたなくなってしま
うんですよね。すでに生産年齢人口が年0.9%減り高齢者の割合が増えており人口
減少社会になっています。このため歳出はどんどん増えていくけど税収は減る可能性
すらある、そういう状況で使えるパイが減っていて、それをどうやって分配していくか、
政治的には難しい問題です。民主主義っていうのはある種人気投票的なところがあっ
て、自分にとって一番利益をもたらしてくれる人に投票する。どこかを削らなきゃい
けない、どこかで負担増しなきゃいけない、これまでの利益配分から不利益配分に変
わりました。一気に政治が不人気なものになってしまって、短命政権なのもそこに原
因があると思います。増税しなきゃいけないっていう政権に誰も投票したくないです
からね。

円:
女性の半分くらいは働いていません。もっと女性と、あと仕事にもよるけど、70歳ま
で働くようにして、生産年齢人口を18~70歳にするのはどうでしょう。ほとんど
の人が働くのが当たり前、税金を払うのが当たり前、そういう社会にしていけば、そ
れほど大変じゃないかなぁというかんじはするのですが。

萱野:
生産年齢人口を上げる一番の方法は女性の就業人口を増やすことですよね。

円:
まだまだM字カーブですからね。

萱野:
女性が結婚か仕事か選ばなきゃいけないという問題の現われです。日本は貴重
なマンパワーを眠らせているということをもっと認識しなくてはいけないんですよ。
家庭に閉じ込めようとか、低賃金に押さえておこうとか、本当にもったいないことです。
女性たちが仕事をして生産して消費するようになれば市場も拡大しますし。現役世代、
特に子育て世代が一番消費しますから、そこの部分に所得が増えるということは日本の
マーケットそのものが拡大していくことに。なので女性の就業率を改善していくことは
ものすごく大事なことで、女性が家にいるべきという規範を超えていくことが、日本の
社会にとっても重要性があります。

円:
高齢者が有権者の多くを占めるものだから、政治家がどうしても有権者にウケのいい
政策ばっかりやる…。

萱野:
政治的には不人気なことをやらなきゃいけないから政権としては困難な時代ですね。

円:
でも、もし仮に自民党政権に戻ったとしても自民党だって消費税のことはやらなきゃ
いけない問題なんです。

萱野:
ですから政局で足を引っ張り合うような政治はそろそろ辞めてほしいと思いますよね。
最近、若い人の貯蓄率が上がっています。これは自分たちのときには年金ももらえな
いだろうと。

円:
不安の表れですね。

萱野:
貯蓄率が高いってことは、他にお金を使わない、つまりマーケットが縮んでしまうと
いうことです。そうなると企業は海外に出たり、雇用を減らしたりして、さらにマー
ケットが縮むという循環なんです。将来不安があるために人口減少以上のスピードで
日本が縮んでしまっている。これは政策の失敗なんですよね。人口の変化は変えられ
ないとしても、加速度的に縮んでいるのは政策の失敗、人為的なものです。若い人に
できるだけ負担をかけないようにして、旺盛な消費意欲を促すことが大切です。

円:
野田さんにはがんばってふんばってもらわないと。

萱野:
ばら撒けるものがなくなった、権力の源泉がなくなったわけですから、政治的には難
しい時代ですよね。でもそこは時間軸をたとえば50年とか長く取れば、年金制度だっ
て解決できると思います。

円:
私の友人たちも孫ができると、孫が成長したときに安心して暮らせる社会にしなくて
はと、みんな口にするんです。高齢世代も若い世代のことを案じているし、実際若い
世代の雇用と生活に希望が必要です。

円:
ヨーロッパの金融危機だとかイランの核開発だとか、エネルギーだとか少子高齢化だ
けではなく、問題は山積みで切迫しています。

萱野:
今年はスーパーイヤーで、各国が内政にかかりきりになります。逆手に取って、日本も
内政にじっくり取り組むことができます。

円:
そうですね。今年はピンチをチャンスに変える年、そうしたいものですね。今日はあ
りがとうございました。
※文中敬称略

2012年1月14日 萱野稔人さん(津田塾大学准教授)「2012年はピンチをチャンス に変える年に」会報誌~MADOKANEWS63号対談~