「男の子がいますからね。憲法改正の手続きを変えるだけだからいいでしょと言われてもね」
最近こんな懸念を口にする人が増えています。安倍政権が参院選の争点として憲法96条の改正を挙げているからです。前回、前々回でも記したように改正手続きを安易にしようという企みの影には、当然、9条を変え、自衛隊は国防軍にして集団的自衛権を行使できるようにしたいという思いがあると多くの心ある人は危機感を持っているようです。

「国防軍なんかにしたら、自衛隊に行く人間は減るかもしれず、いずれ徴兵制ということになる。だから男の子を持っていると心配なんです。今度の参院選で自民党や日本維新に勝たせちゃいけないと思うけど、民主党は頑張ってくれるんですかね」と言うわけです。
「円さん、実は私の彼、自衛隊なんです」。昨年の私の選挙を手伝ってくれていた若い女性がお茶を飲んでいる時、ポツリと言いました。
「彼がこの間言ったんです。もし国防軍になったら、俺、やめようと思うって。私も、言ったんです、そのほうがいいって。人を殺すなんて絶対してほしくないもの」

そうですよね。たとえば2003年4月、イラクのファルージャ市内の小学校に陣地を構えていたアメリカ軍に対して市民が撤退を要求するデモを行った時、アメリカ軍が銃撃して17人の市民が殺害されました。自衛隊ならイラクに派遣されても市民を銃撃するなんてほとんど起こりえないけど、これが国防軍だったら、アメリカ軍と同じ行動をするかもしれない。

確かに9条2項があっても、「解釈」で次々と9条が形骸化しているし、F15戦闘機やイージス艦も持っているけれど、それでも戦争はしない、つまり自衛隊は「自衛のための最小限度の実力」として認知せざるをえず、いたずらに武力を行使しない歯止めになってきたのです。

それが憲法に「国防軍」として書かれたら、あっという間に日本は、大量破壊兵器がなかったにもかかわらず、イラクに戦争をしかけたアメリカと同歩調をとってしまうでしょうね。軍として公認されてないからこそ、すぐに「ブッシュを支持する」といった小泉さんのもとでイラクに派遣されても、自衛隊は自らを律する姿勢をとり続けることができたんだと思うのです。

武器を持てない自衛隊が気の毒だとか、グローバル経済の下で国際的に活動する企業の社員をテロから守るためにも、「軍」が必要だという人がいるけれど、平和外交で脅威を失くし、貧富の格差を失くしたり、あらゆる宗教や文化を受容する多文化政策でテロを失くす努力をするほうが先じゃないかしらね。我が国の文化を守るのは突然だけど、歴史をしっかり検証せず、隣国との関係を悪化させるのは、わざと脅威を煽り立て、国民に改憲と国防軍が必要だと思わせるように仕向けているとしか思えません。

私は2010年夏の参院選で落選してしまいましたが、その直前に通すことのできた法律があります。

それはいわゆる「シベリア特措法」と呼ばれるもの。1945年8月15日が終戦(敗戦)記念日ということは誰もが知っていると思いますが、あの終戦から8日後の23日、当時のソ連のスターリンが密命を出し、満州等にいた日本兵らを帰国させるとだまして、シベリアに強制連行し、何年も強制労働をさせたのです。零下50度というような極寒の地で満足な食料も与えられず過酷な労働に従事させられた人々は凍死餓死し、その遺骨はいまだにシベリアの凍土に眠っています。そして少しずつ見つけられ戻ってきた遺骨は氏名も身寄りもわからず、千鳥ヶ渕に埋葬されています。抑留から戻った人たちは「アカ」と蔑まれ、仕事も見つからず肩身の狭い思いをしながら生きてきたそうです。

その人たちに、やっと国が強制労働の対価を支払って(微々たるものですが)謝罪の意をあらわし、さらに遺骨の引き上げや、シベリア抑留と戦争の悲惨さを後世に伝えるという法案を通したのです。

簡単ではありませんでした。何年もかかりました。一緒に活動した平均年齢80を過ぎた人たちは、その間に次々と亡くなりました。

3年前の選挙では炎天下の新宿で85を過ぎたその人たちが「円さんは私の宝だ」と応援演説をぶってくれました。

今、彼らは言います。「2度と戦争のできる国になどしてはいけないよ。安倍さんはおかしい。憲法を国民の手に取り戻すだなんて。自分たち権力者の手に取り戻したいだけなんだよ」

第42回はここまで。
次回6月18日の「危険な時代⑦」
「vol.43 ある日、細川護熙さんが」に続きます。

vol.42 『危険な時代』 ⑥「シベリアから戻った老兵のつぶやき」