「子どもが書いた離婚の本」の翻訳本は1982年6月に出版された。アメリカ合衆国、ボストン地区に住む、11歳から14歳までの20人の子どもたちが書いた本(1981年)を私が翻訳した。

当時のわが国には、離婚した子どもたち向けの本は少なかったと思う。ましてや当事者の子どもが書いた本など私の知る限りなかった。

20人のアメリカの子どもたちはなぜこの本を書いたのか。それは20人全員が親の離婚問題で何らかの影響を受け、気持の整理ができず深刻な思いを秘めていた。

そのことに気づいた担任のエリック・ローフス先生が深刻な思いを吐き出し、定期的にみんなで話し合う場をつくり、ここから本が生まれた。医者や精神科医らが書いた『大人による子どものための離婚本』には大人の偏見が満ちていたり、子どもたち自身が大事だと思っていることに触れていなかったり、子どもを馬鹿にしているものがあって満足できるものがなかったことも、本を自分たちで書こうとした理由だという。

それから30年以上経つが、私たち大人は子どもの気持ちに寄りそっているだろうか。子どもの声に耳を傾けているだろうか。

ハーグ条約に我が国も加盟した。早く日本も加盟してくれたら、別れた妻が日本に連れ去った息子に会えると訴えていた英国人男性、また、アメリカに娘を連れ去られたまま会えずに苦しんでいた日本人女性など多くの人の「子どもに会いたい」「一緒にくらしたい」という思いを聞いた。その切実な訴えには、「何とか会えるようになればいい」と他人の私たちだって心動かされた。

ただ私は法律や条約で人の心を変えることの難しさも知っている。

ハーグ条約加盟によって、ようやく安定したくらしを送っている子どもが、もう一方の親が待っているとはいえ、元の居住地に戻され、それからどちらの親の元でくらすことになるのかわからないという不安定な状況におかれることになる。そのことによって受けるかもしれない子どもたちへの大きな影響をできるだけ小さくする配慮を私たちはしなければならない。

そのためには両親が互いを子どもの親として信頼しあい話し合いができるようカウンセリング等で、まず支えることが必要ではないか。

そのことなしに、ただ元の居住国に戻すということは、子どもの心理的トラウマを深くするだけだろう。

子どもに会いたいという気持はわかる。しかし、子どもの気持をまずは大事にしてほしい。

我が国では少数派だったが、30年以上前から、別れる時に面接交渉(※1)をしっかり調停(※2)で決めて、毎週実施していたケースがあった。

「子どもの権利だし、子どもには父親が必要だと頭ではわかっているの。でもね、離婚原因になった女性と再婚している家へ、息子二人が毎日曜日には行くのが耐えられなくてね。それがどうしても子どもに伝わってしまうんでしょうね。帰ってくると子ども部屋にかけこんで父親からもらったおもちゃとかを私に見つからないように隠すわけ。気をつかわせてるとわかっても、なかなか自分の気持を変えられなかった」

そう言っていた母親がいる。しかしフルタイムの仕事が決まり、離婚後に新しい友人も多くでき、子どもたちが父親に会いに行く日曜日は、好きな映画をみたり、友人とランチを楽しんだりできるようになると、「前夫がベビーシッター代りをしてくれて助かる」と思えるようになったという。

別れた両親が子どもの気持を最優先できるようになるためには、まず親の側が自分の生活と精神を安定させることが大事なのかもしれない。

そのためにも、貧困率の高い我が国の母子家庭の母の就業支援・子どもへの教育支援等の充実が必要で、ハーグ条約に加盟しただけで安心していてはならないと思う。

第76回はここまで。
次回は5月6日に。

<脚注>
※1 面接交渉
面接交渉(めんせつこうしょう)は、離婚後に子供を養育・監護していない方の親によって行われる子供との面会等のことである。これを実施する権利を面接交渉権という。

※2 調停
離婚について当事者間の話合いがまとまらない場合や話合いができない場合には,家庭裁判所の調停手続を利用することができる。
調停手続では,離婚そのものだけでなく,離婚後の子どもの親権者を誰にするか,親権者とならない親と子との面会交流をどうするか,養育費,離婚に際しての財産分与や年金分割の割合,慰謝料についてどうするかといった財産に関する問題も一緒に話し合うことができる。

vol.76 『子どもを育てるということ』③ 「ハーグ条約加盟と離婚後の親子Part2」